2011年10月31日月曜日

10月の見本その2 『有事対応コミュニケーション力』

 10月見本のもう一冊は(11月1日発売)、岩田健太郎・上杉隆・内田樹・藏本一也・鷲田清一による共著『有事対応コミュニケーション力』。こちらは、上記のメンバーによる、災害時のコミュニケーションとリスク管理をテーマとしたチャリティシンポジウムの記録をまとめたもの。


迫力のあるデザインはシリーズ通してお願いしているASYL


 独立系ジャーナリストと哲学者と臨床医と武道家とリスク管理研究者が一堂に会して、災害時におけるコミュニケーションのあり方について語る機会というのは、なかなかないものであり、その組み合わせの妙が本のひとつの売りであります。

 「これからの日本人はみな放射能と一緒に暮らしていくしかない」という上杉さんの重い発言も、岩田先生の非常時の現場における寡黙さについての発言も、鷲田先生が提示する我々の生活をささえてきた基盤そのものに対する疑義も、内田先生の情報の格差化・階層化にたいする懸念も、藏本先生の指摘する大企業の情報公開の甘さも、みなそれぞれ説得力があります。
 本の性格上、議論を重ねたうえでなんらかの提言をまとめるというものではありませんが、各人の発言のなかに読者の方それぞれが自らのものとしてすくい取れる部分があれば、それを生活の現場においていかしていっていただければと思います。

 なお、本書の印税は、震災復興の義捐金にあてられます。

10月の見本その1『地雷を踏む勇気』

 「生きる技術!叢書」10月見本の2冊のご案内です。(発売は11月1日)

 まず一冊目は、小田嶋隆さん著『地雷を踏む勇気』です。


強烈な印象の装画は、杉浦茂先生の作品『ミフネ』から

 担当編集者A藤は、80年代頃にパソコン関係の出版に携わった編集者にありがちな話ですが、小田嶋さんの約20年前の著書『我が心はICにあらず』にガツンとやられたクチです。当時、テクニカルな実用情報を伝えるのみだったパソコン書の世界に、突如カルチャー世界のスピリットを持ち込んだ小田嶋さんのこのエッセイ集を読んで、パソコン的なるものがもたらす可能性の裾野の広さに目をひらかされ、以来デジタルを軸にして様々な分野のアイテムをつなげてみるとどうなるか?……という観点から本を作るのが、一時期のA藤のポリシーのひとつとなったのでした(20年ほど前のお話)。

 爾来、小田嶋さんを「悪い兄貴」のような存在としてリスペクトし、その本を愛読してきつつも、これまで一度も編集担当としてご一緒する機会がなかったA藤にとっては、いわば満願かなっての一冊であります。

 内容は、「日経ビジネスオンライン」で高い人気を誇る連載「ア・ピース・オブ・警句」からのコンピレーション・エッセイ集。
 もともと「この連載を毎週楽しみにしている」という声を、A藤の周囲でもよく聞くくらい質の高いコラム連載だったのですが、ことに3.11の震災以降グッとテンションが上がり、その切れ味は凄味さえ感じさせるものになっています。

 大津波の惨状を目の当たりにしての絶望感も、いつまでも収束が見えない原発事故についての不安も、東電や政府の不誠実な対応への怒りも、圧力をもってして人をねじふせようとする輩に対する異議も、そして危機的な状況における言葉の力への信頼も、みな小田嶋さんがこのコラムで代弁してくれていました。3.11以降の不安な日々を過ごす間、この連載にA藤はどれほど助けられたかわかりません。

 でも、これはA藤の勝手な思い入れであって、小田嶋さんに面と向かってそんなことを言ったならば、「いや、俺はただコラム書いているだけだから」と軽くいなされるにちがいありません。そこがまたcool。
 小田嶋さん、この本についてもしインタビューを受ける機会があったら、このセリフ言ってください。「たかがコラムだけど、俺は好きだね」

 というわけで、人生の座右の銘がぎっしりつまった珠玉のエッセイ集。ぜひご一読ください。

 なお、同じ「ア・ピース・オブ・警句」をリソースとしたエッセイ集が、日経BP社からもほぼ同時(2週間遅れ)で発売予定です。タイトルは『その「正義」があぶない。』こちらもごひいきに。

2011年10月13日木曜日

好評につきフェア期間延長

 先日このブログでもお知らせしました、ブックファースト新宿店さまで開催中の「『最終講義』を読んだ若い読者のための60冊」フェアですが、販売好調につきフェア期間が延長になりました。10月21日まで開催中ですので、ぜひ足をお運びください。

 どんな本が選ばれているか……の情報は、先生のブログで先日公開されましたので、こちらもご参照のほどを。「もうフェアは終わってしまい」とあるのはご愛敬ということで。



半日くらいその前で過ごせそうな本棚。椅子があったら読みふけっちゃいますね。

『ためらいのリアル医療倫理』『ご近所の公共哲学』の紹介が

 10月発売の新刊、岩田健太郎先生の『ためらいのリアル医療倫理』が、「週刊ポスト」10/27号で紹介されました。評者は精神科医の香山リカさん。千字に満たない短い紹介ながら、「私は、きちんとためらえるのか」と自問で結ぶあたりに、同じく医療・言論の現場に立つ強い当事者意識が見え、香山さんらしい納得の紹介でした。


 もうひとつ、6月に発売になりました小川仁志先生の『日本を再生!ご近所の公共哲学』が、住友生命が発行し無料配布している本の情報誌「スミセイベストブック」11月号で紹介されています。3頁にわたっての紹介の最後には、小川先生ご自身による以下のメッセージも掲載されています。



 私は今アメリカで公共哲学の研究をしています。こちらに来て改めて感じるのは、日本のご近所の素晴らしさです。アメリカは基本的に個人主義の国ですから、ご近所のつき合いは表面的なものになりがちです。しかし、日本のご近所には、それにとどまらない温かさを感じるのです。長引く景気の低迷や大震災の被害と立ち向かうには、一人ひとりがもっと世の中に関心をもつことで、ご近所がもつ温かさを「熱い力」に変えていく必要があります。拙著がそのための手引きになると幸いです。

 ひきつづき、ご愛顧のほどを。