2012年6月24日日曜日

もしファイナンスが世界を変えるとしたら?…6月の新刊は、慎泰俊 著『ソーシャルファイナンス革命』



生きる技術!編集部のA藤です。「生きる技術!叢書」6月の新刊は、慎泰俊(しん・てじゅん)さんの『ソーシャルファイナンス革命──世界を変えるお金の集め方』です。


力強くもラブリー感ただよう装丁はいつものようにASYL
今回は装丁イラストもASYLの徳永さん

 著者の慎さんは、大学院を修了後、モルガン・スタンレー・キャピタルを経て、現在はPEファンドの投資プロフェッショナルとして働く傍ら、貧困削減のためのNPO、Living in Peaceを設立。カンボジアやベトナムなどで貧困層支援のための「マイクロファイナンスファンド」(これは日本初)を企画したり、国内では児童養護施設向けの寄付プログラム「チャンスメーカー」を立ち上げ、子どもたちの未来につながる数々のセッションを企画するなど、ソーシャルビジネスの世界でアクティブに活動を続けている俊英。

その慎さんの今回の著書は、タイトルのとおり、世界を変える可能性を秘めた新しい金融の仕組み、ソーシャルファイナンスの本格的な解説書。

ソーシャルファイナンスとは、人と人(個人と個人)のつながりを活用した金融の仕組みのことで、発展途上国の貧困層に対する小口金融であるマイクロファイナンスが有名ですが、いわゆる先進国でも、IT技術の発達とともに、ウェブを通じて多数の個人から少額の出資を募るクラウドファンディング、個人から個人への融資を可能にするP2Pファイナンスが近年急速に広がりをみせています。

本書は、そのソーシャルファイナンスの仕組みを、ファイナンスの基礎的な理論をもとに詳細に解説しつつ、いま世界でどのようなソーシャルファイナンスが動いており、それにより社会がどう変わってきているかを、海外・国内のさまざまな事例をあげて紹介していきます。さらにこうしたソーシャルファイナンスが、これからどうなっていくか、どう世界を変えていくかについて、考察します。

著者はこのように言います。

 遠くない未来に、大学入学を考えている途上国の貧しい高校生は、インターネットを通じて先進国の大勢の人々からお金を集めることができるようになるだろう。このような、大勢の人々からお金を集める手法は、クラウドファンディングとよばれ、先進国を中心に急速に広がっている。こういった取り組みの先にあるものは何かを、本書では考えてみたい。
 いま世の中に起こりつつある変化は、これまでのイノベーションの延長線上にあるだけではなく、世の中の仕組みを根本的に変えていく可能性を有している。いつの時代も、後の大企業となるベンチャーや、後に大成するアーティストにお金を投じることができたのは、一部の人々だった。いま、それが変わろうとしている。

著者の言う途上国の学生への就学支援、応援したいアーティストへの投資から、こだわりを持ったモノづくりに対する資金提供、起業を計画している人への融資、さらには哲学者・思想家・研究者への経済的サポートなど、この新しい金融の仕組みは、大袈裟でなく、世界を変える可能性を秘めています。

日本では最近、キャンプファイアーのクラウドファンディング・プログラム「study gift」が炎上する事件などありましたが、本書を読むと、海外ではすでに学費で困っている学生を個人が支援し卒業後の活動に対してもサポートするプログラムはじめ、さまざまなクラウドファンディングの事例が着実に成果をあげており、経歴詐称とかやり方が拙速であるとかで批判する前に(それはそれで必要な作業でありましょうが)、こうした仕組みをどんどん有効活用して社会を変えていこう、そのための実績を積み上げていこうよ、という気持ちになります。

クラウドファンディングをはじめとるするソーシャルファイナンスを実践している人たちの動きを見ていると、ファイナンスの知識を用いて個人の経済的自立・スキルアップを呼びかけていた時代から(勝間和代さんの『お金は銀行に預けるな』など)、一段ステージがあがって、ファイナンスの知識を使って社会を変えていこうというムーブメントが起きている手ごたえを感じ、わくわくしてきます。このわくわく感がぎっしりつまった本書、ぜひご一読をお願いする次第。

ライフネット生命の岩瀬大輔さんからは、以下のような帯文をいただいています。

 人への共感が、お金を媒介にして、世界を変える力になる

いろんな人たちの思いが詰まったこの一冊、6月30日発売です!どうかよろしく。